山本直樹「レッド」(1)-(2)

1969〜1972 日本。
かつて存在した、革命を目指した若者たちという史実を元にした作品です。



学生運動から端を発し、最終的には山岳ベース事件、それからあさま山荘事件という、日本史に名を残す大事件を描くであろうこの作品。世代によって受け取り方がまったく異なると思いますのでその点はご注意を。

作中に出てくる人物は、実際の人物名ではありませんがモデルが存在しています。年齢などは同じで、ほとんど20代の若者が主役です。地名や事件なども削除されていたり、名前を変えられていたりしますが、主要な事件は実際の事件を元にしているようです。

作品としては、“革命者”たちが闘争に加わり、“権力者”の手から逃れ潜伏しながらも、革命に向けて行動する様を、一定の距離を保ちつつ淡々と描いています。別に彼らの主張を押し付けるわけでもない、彼らを血も涙も心もない鬼として描かない。それが作品として安心して読めるところであり、おすすめしたいところでもあります。作品こそ様々な意味から「レッド」と名づけられていますが、読み手によってさまざまに映る作品だと思います。



作品として、様々なユニークな演出がされているのですが、そのなかでも殊更ユニークなのが、登場する人物の未来を毎回記載するという演出です。

○○ このとき24歳
長野県の ■■■山荘で 逮捕されるまであと約500日
死刑確定まで あと約8200日

△△ このとき20歳
茨城県で処刑されるまであと104日

など、毎回毎回記載されます。特に活動により犠牲になるメンバーには番号が付きまとっています。

この人物の末路がどうなるのか。何故この人がこういう最期を遂げるのか。逆に何故ここまでやっておいて無事に生き延びれるのか。そう考えながら読んでいって欲しい、という狙いがあるようです。史実を元にしてるからこそできることだな、と。



作品の感想となると、どうしても“彼ら”への感想となってしまいます。


学生運動が教科書やテレビの中のお話である世代の私からみれば、彼等の行動はまったく理解ができません。

万引きをし、強盗をし、警官を殴りつけ、車を奪い、鉄砲を奪い、果ては自分の仲間の命までも奪う。

どんな崇高な思想があろうとも、こんなのは被害者である一般市民には納得できません。現代でいえば、彼らは間違いなくテロリストです。


さらに作中では、その崇高な思想とやらもよくわからない作りになっています。(作品が始まる前の学生運動あたりの資料を読めば何となくはわかりますが。)作品が始まるころにはすでに手段が目的になっていて、「権力に抗う」こと自体が目的になっていました。

作品の出だしからすでに彼らは、「外相の乗る飛行機に火炎瓶を投げつけ、そのせいでフライトが数分遅れたことがニュースになったのを喜ぶ」“だけ”の若者たちです。大掛かりな暇つぶしと同じ。一般人には甚だ迷惑。その後の活動もそれの延長です。

このように、彼ら“革命者”たちの行動はまったく“支持”できませんが、そういう時代があった、という歴史を知るには非常に面白い作品です。彼らは20〜25歳という年齢なのですが、何故そういう行動を起こしたのか、または起こせたのか。非常に興味深いです。


よく「戦争を忘れるな」とテレビや新聞で流れています。しかし、こういった時代があったことも忘れてはいけないと思いました。漫画として描かれていますが、描かれている、またはこれから描くであろうほとんどの事件は、ほんの40年前の日本に実際に起こった出来事なのです。



レッド(2) (KCデラックス)

レッド(2) (KCデラックス)