岩岡ヒサエ「土星マンション」(4)
仕事は地表35000メートルに設置された巨大なリング状マンションの窓を拭くこと。
独創的な世界観の中で“仕事”と“夢”と“生きること”といった現実世界と何ら変わることのないテーマを、丁寧に、真摯に描く物語。4巻目です。
表紙自体がもうすでにといいますか、途中まで読んだら絶対に見返すことになると思いますが、非常にしんみりしてしまいます。しかしストーリーを絡めなくとも、絵だけでも非常に独特な構図です。どんな場面かは表紙をめくったらすぐわかるのですが、こんな構図を思いつくのも凄いです。1〜3巻までの表紙も凄く好きなんですが、好きな絵が増えて嬉しいです。それと同時に、連載中のカラーもカラーのまま収録してほしいなぁ・・・と思いました。
ミツも仕事に慣れてきて・・・というレベルじゃないくらい腕前が上達したのは仁さんのおかげです。もちろん真剣に仕事に取り組むミツ自身のおかげでもあります。資格試験で悩むのとかダイレクトに自分とかぶるのが微妙に辛いです。あと、理解不能な年上の部下を持つミツに非常に親近感を持ってしまいました。
そんな感じで順調に仕事をこなしていたミツなんですが・・・。今回は辛いお話です。影山さんの一言一言が重くて切ないです。そして仁さんのつぶやきにズシンときてしまいました。
面倒見てた奴ばかりなんでこんな・・・
って。ずーっと冷静な態度でいた仁さんだからこそ。辛いセリフです。
そんな中で佐知とミツがバッタリ出会うわけですが、泣き出しそうなミツに佐知がそっと寄りかかるシーン。ちょっとしたコマなんですが、ここ、すごく好きなシーンです。その前後もとても好き。佐知がかわいいというか佐知に対するミツがかわいいというか。
そういうお話が続く中でもひときわ異彩を放つのが真です。ミツに「窓拭きを辞めさせるべき」とまでいいます。いままでもミツにひどいことをしてきたのですが、今回は今までで一番きつい一言です。ミツ自身が責任を感じているから尚更。そういう意味で、主人公であるミツの敵(かたき)役的存在ではあるのですが、実は私が一番好きなキャラクターだったりします。
すいません オレ、
みんな辞めたらいいって思ってますよ。
とか平気で言える神経にあこがれます。それでも、何だかんだといって仕事には真摯に向き合っていますし、口は悪いですが、ミツを助けたりときちんと優しいですし、そういうも好きな理由のひとつです。今後もズバズバとミツに絡んで欲しいです。
それから本編の裏で動いているソウタの物語も忘れてはいけません。こちらはやりたいことがやれないなかで、やりたいことが見つかった人間を描いています。ソウタの悩みも痛いほど理解できてしまいます。地上に降りる計画がどうなるのか、こちらも楽しみです。
こう追いかけていくと、一人一人のキャラクターがきちんとしていて、みんな魅力的だと確認させられました。そんなそれぞれのキャラクターの思惑や行動がパズルピースのようにはまっていって、最後には一枚の絵が完成される。そんな風に物語を楽しんでいます。最後の絵がなんなのかはわかりませんが、お話の筋はミツという人間の成長であることは間違いないと思うので。
あと、相変わらず絵の描き込み具合が半端じゃないです。絵だけでも好きな作家さんです。そんななかオトノハコの面々を確認したときは嬉しい気分になりました。そんな“遊び”も好きです。
というわけで次巻も楽しみです。というか、雑誌掲載の分が非常に気になる展開なんですが・・・。
- 作者: 岩岡ヒサエ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/01/30
- メディア: コミック
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