仙石寛子「背伸びして情熱」

表紙買い。名前だけは何故か知ってました。まんがホームと休刊してしまうコミックエールに連載中の作品をまとめた短編集です。

形式が4コマ形式になっていますが、起承転結の従来の4コマとは違って、コマ割を4コマ風にしている、といったほうが正確だと思います。収録作品は表題作とあと1作品が連作になっていて、残りの7作品が1話読みきりの形式です。


で、絵柄に似合わず題材の選び方がエグいです(誉め言葉)。男子生徒×女教師、姉×弟の近親、百合風、BL風、妖怪モノ、幽霊モノと、タブーも含めてなんでもござれです。ええ、大好きです。そしてエグいですが優しい。もう表紙買いしちゃったけど全然大当たりでした。恋愛系以外でも、ほっこりとするお話が描かれています。全体的に心がざわつくような感動は起こらないんですが、静かに揺さぶられるといいますか、そんな感じ。



背伸びして情熱

表題作。就任2年目の女性教師と、男子高校生のお話です。1話目は男子高校生の気持ち、2話目は教師の気持ちが吐露されるような構成になっていて、不安とか戸惑いとかいった心境の変化にとってもキュンキュンしてしまいます。何とも思っていなかった教師が、告白をされたことがきっかけでだんだんと惹かれていくにも関わらず、気持ちの表現の仕方が下手なせいで、生徒のほうが不安になってしまう。と、よくありそうな場面ですが、その描き方が実に丁寧で好感が持てました。

まぁ、どっちもかわいいというのが正直なところでもあります。すぐポロポロ泣いちゃう教師もかわいいし、すぐ怒ったりいじけたりしてしまう生徒もかわいいです。

4話で終わりなんですが、続きが読みたいですよ?



ほかの短編もそれぞれ好みです。


桜姫

デビュー作。子供が居ない夫婦の下に、桜の木の子供が来て育てるお話です。

母親代わりの女性が

なんていい子に育って!!

と感激するシーンがあるのですが、

いい子にって、こういうふうに育てたのはお前達じゃないか

と、子供が返します。

編集さんに「好きに描いてもらったほうがいいかも」と言われたらしいですが、この感性は是非とも大事にして欲しいと思いました。



お嫁に行っても

百合風です。お嬢様学校を卒業する2人の卒業式での会話です。タイトルどおり、片方がそのままお嫁に行くんですが、言葉の裏に隠された想いにキュンキュン。



雨と猫

BL風です。雨に打たれる捨て猫と、それを助けられずにただ見つめている男子生徒、さらにそれらを見守る男子生徒のお話。ただ雨に打たれながら見ているだけなのにキュンキュン。



夫婦かき氷

夫に先立たれた妻と、盆に幽霊になって帰ってきた夫のお話。

あー・・・ なんでオレ
お前をおいていってしまったんだろうなぁー・・・

は、グッときました。
次の恋を見つけていいのと苦悩する妻と、次の恋を見つけろという夫。切ないお話です。


十五夜に、お風呂

「悪いことがあった次は良いことがあるよ」というお話。他の作品と違ってかなりやさぐれ感が出ています。そのあたりのギャップも面白いところです。



赤くない糸

最後の収録作品であり、最大の問題作です。

姉弟プラトニックなお話です。姉は姉の、弟は弟の、それぞれの葛藤がとても切ないです。「今だけの感情じゃないか?」と不安になったり、相手を想うあまり身を引こうとしたり。そんな近親モノの切なさを余すことなく描いています。姉のことを想う男性の存在が、それらの不安をさらに掻き立てます。2人の出した結論は・・・。いいお話というか好きなお話でした。

7話で終わりですか。もっと続きが読みたかったです・・・。





エールにも新作読みきりが描かれていましたが、こちらもお姫様×メイドのキュンキュンコンボな作品でして、次はもう絶対いいところに拾われて欲しいと思います。



背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)



【追記】

仙石寛子先生公式サイト
空豆人間