ねむようこ「午前3時の無法地帯」(1)-(2)
目を引く表紙カバーに惹かれました。
イラストレーター志望の七瀬ももこが就職したのはパチンコ専門のデザイン事務所。デザイナーの仕事は激務だし、営業は怖いし、先輩は変態だしで仕事はお疲れ。恋愛も最近は彼氏の家に行っても眠るだけ。「あたしなんでここに居るんだろ?」と自問する中、同期の子が突然会社に来なくなっちゃって、仕事量は激増。彼氏もどうやら浮気をしているみたいでその現場を目撃・・・。そんな絶望的なシチューエーションの中、目を奪われたのは上司が作ったパチンコ屋のキレイなのぼり―――。「辞めてやる!」と思いながらも、今日も会社に寝泊りするももこに、最近キニナル人が出来て・・・?というお話です。
掲載誌がフィールヤングなので、恋愛も仕事も、という作風になっていますが、これまたどちらとも面白いです。
仕事のパートですが、とにかく“無法地帯”と呼ぶにふさわしい、労働基準法そっちのけの仕事ぶりです。夜中3時でも絶賛稼動中。会社に布団どころか、シャンプーまであります。連泊したときに使えと。社員も“無法地帯”で、常にキレてる営業が居たり、夜中になると何故かズボンを脱ぎ始める先輩は居たり、一見ゆるキャラなのに正論をズバズバと斬りつける上司が居たり。で、ミスしたり、甘えたことを言ったりすると説教が飛びます。仕事は真面目にやりましょう、という。仕事量が多いのはよくないですが「仕事ナメんな」という空気は結構好きだったり。
恋愛パートも、浮気した元カレは置いておいて、新たな恋人候補である、同じビルで働く男・多賀谷との会話とか甘い空気の作り方とかが抜群に上手いです。お互いがイイ感じになってからの甘い距離感とかがですね、何か色々思い出します。いわゆる恋人一歩手前の関係を丁寧に描いてあるからかな、と。2人の些細なやり取りというのは少女漫画でも結構はしょられたりするんですけど、この作品はあの甘ったるい感もキチンと描いています。
ペットボトルを首筋に「うりゃっ」って当てて、冷たっとなるシーンがあるんですが、そういう。
バカじゃないの?
かわいいのはお前だっ
と、ヒゲ面の男に対して思ったりするんですが、そういう。
あたま・・・触ってもいい?
とか、そういう。
多賀谷とはひと波乱あります。というか2巻の時点での話で言うなら、多賀谷の態度はありえない、です。チャラ男っぽくないのに。それから多賀谷とももこの恋路を邪魔する美人お姉さんキャラがイジメてきたりするんですが、ベタですがこっちはこっちで面白かったり。ただ、立ち位置的にかわいそうなキャラだな、と。
と、2巻は恋愛メインで進みますが、仕事のほうも面白いです。というか、キレキャラである営業の輪島さんが非常にいいキャラしています。基本的に、膨大な量の仕事を取ってきてデザイナーに丸投げ、出来てなかったらヤクザのごとく怒鳴り散らす、という恐怖のキャラです。しかし、ももこに
大丈夫か?
と問いかけて
全然 大丈夫じゃない!!
と返されたときは、ももこの上司に
あいつ・・・大丈夫かなあ?
無理させすぎなんじゃない?
とオロオロしたりします。・・・か、かわいい。普段は椅子や人を蹴ったりする人なんですが、見た目もヤクザな人なんですが、このギャップがたまりません。
いつも怒ってばっかりな輪島さんですが、何故怒るかというと、もちろん性格もあるでしょうが、ミスをしたものを納品するとお客さんが困るからなんですね。あと会社に迷惑がかかる、それに自分が怒られる。デザイナーのキャパ云々はあるにせよ、注文をもらった以上キチンと納品しないといけない。そういう仕事に対する厳しさが描かれているのも、この作品の面白さを構成する要素のひとつだと思いました。上記みたいなオロオロするのも、デザイナーに元気で仕事をしてもらいたいからというのがあるからかもしれません(徹夜は置いといて)
そんなわけで、多賀谷との関係でダメージを負ってしまって仕事にならなかったももこが、頭を冷やして立ち直ろうとする、というところで2巻は終わります。こんな感じでレンアイ第一主義じゃないところもいいです。恋愛も大事だけど仕事も大事だ!というバランスがいい感じ。思わぬ良作を発見しました。続きが非常に気になります。
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