志村貴子「青い花」

アニメ化記念ということで、ネタバレがない程度に青い花の紹介でも。あらすじもなしで。






作品のうたい文句は「ガール・ミーツ・ガール」であり、実際に同性愛を扱っていて、それがテーマなのは間違いないですが、この作品の一番の見所は、その繊細な心の動きと、最小限の表現で描かれる独特の世界観、それとつらいこともあるけど楽しい、些細な日常の描写ではないかと思います。いわゆる高校恋愛モノです。ただ主人公の好きな人が同性なだけです。

日常の細かい会話がごく自然に描かれているだけなんですけど、それだけで面白いと感じさせることができる漫画家はそうは居ません。「なんでもない日常が一番」が徹底している漫画家さんだと思っています。


入学式で新しい制服楽しみ、とか、お嬢様学校素敵、とか
デートの前日に部屋の模様替えはじめちゃう、とか
イヤだと言えずに周りに流されてしまう、とか
意固地になって見栄はってしまう、とか
思い余っていきなり変なことを口走る、とか


そんな些細な心情を丁寧に描いていて、それが素敵だな、と毎回感じています。


で、GLなので恋愛メインではありますが、「周りの障害を乗り越えて」でもなく、「若いころの一時的な迷い」でもない、「好きな人が女の子でした」という女の子をごく普通に、ほどよいバランスで描いています。このあたりは、作者さんの

(女の子同士の関係を)否定的な気持ちで描いていない
季刊エス2009年7月号インタビューより引用)

というスタンスのおかげかな、と思います。それが読んでいる身とすれば、すごくやさしくて救われます。

もちろん百合好きーで見るのも構いませんけど、それだけで終わらせるのはもったいない作品です。


あとは・・・これは漫画を読まないと伝わらないんですが、“漫画”が非常に上手いです。絵は当然ながら、空間の取り方や言葉の選び方がとても絶妙です。適当に読んでると「白いなぁ」とか「説明不足だなぁ」と思ってしまうみたいですが、全然そんなことはなくって逆に1コマ1コマが濃いです。

1巻第1話目の33ページの下2コマとかがそういうのの象徴的なコマじゃないかな、と。背景黒にセリフだけのコマと、セリフなしで2人が歩いているコマがあるんですけど、たったこれだけなんですが、今は離れてるけど昔は本当に2人とも仲がよかったんだな、と、センチメンタルな気持ちにさせてくれます。前ページの回想シーンと相まってすごく素敵な感じに。

それからの怒涛の展開と、最後のセリフも相まって、個人的には青い花の第1話は「完璧な第1話」だと思っています。1話である程度話を完結しておきながら、今後も読みたくなるような、そんな素敵な第1話です。


そういうわけで、もっと評価されてもいい作者さんだと思います。理解できない人にはまったく理解されないみたいですが・・・。というか1巻から見直してたら面白すぎて止まりませんでした。何回見直していると。男性陣の立ち位置が絶妙なんですよね。男だけどその他大勢じゃなく。そんなところもすきです。



青い花 1巻 (F×COMICS)

青い花 1巻 (F×COMICS)